第197回 ゆるブラック
- レポート
- 2021.11.30
『日経ビジネス』11/15号を読みました。
「ゆるブラック企業
残念な働き方改革の末路」
という特集でした。
私がうすうす感じていたものを直視するこ
とになりました。
そもそも「ゆるブラック企業」とは何か?
残業は少ないが成長できない、働きがいを
感じない会社なのだとか。
ブラック企業は中小企業に多いのですが、
ゆるブラックは、働き方改革を実現した大
企業にこそ多いようです。
実際ある調査では「東証1部・2部上場企
業に勤める社員の「働きがい」は年々低下
している」とのこと。
社員、中でも20代の若手社員。
とにかく早く帰ることを優先させられて、
そのために裁量が必要な業務は上司や先輩
がやって、自分たちはルーチンワーク主体。
やりがいが感じられないのだとか。
早く帰れるけど満足できない。
一見贅沢な悩みですが、切実なのでしょう。
大手化学メーカーA社に勤務していた京子
さん(27歳、仮名)
「何としても午後6時には仕事を終わらせ、
会社を退社しなければならない。」
「乱暴に言えば”仕事はどうでもいいから
とにかく早く帰れ”という上からの意思を
ひしひしと感じた」
「既にスキルを確立した先輩はそれでよく
ても、これから仕事の幅を増やしていかね
ばならない私たち若手にはどうなのかな。
自分は”仕事一筋”でもハードワークを望
んでいるわけでもないが、この環境はさす
がに違うんじゃないか」
都内の機械総合商社に勤める里佳子さん(2
4歳、仮名)
「得意の語学力を生かし、会社がグローバ
ルで最適な資材調達をする一助になりたい
と思っていた。」
「定型業務なうえ、先輩も驚くほど丁寧に
仕事を教えてくれるので月の残業時間は6
時間だけ。
そこだけ見れば”ホワイト職場”なのは間
違いありません。
でも、大学時代の友人と話していると、自
分が成長できない環境にいる気がしてなら
ない。」
そうした人たちの中には、あえて給与が低
く残業が多いベンチャーへ転職していく人
も多いとのこと。
京子さんも転職しました。
多くの中小企業が、なんとか残業時間を減
らして大企業に肩を並べても、その先は必
ずしも正解ではないようです。
実際、私たちの事務所でも同じような心配
があります。
具体例を挙げると、若くして税理士に合格
した人の実務経験の密度。
以前はたくさんの仕事が集中して、時には
深夜まであらゆる仕事を経験した。
その結果、大変な思いもしたでしょうが、
30代に入るころには、会計処理や複雑な
税務申告はもちろん、税務調査の立会から
資産運用の相談から講演の講師やらなんで
もできるようになっている。
一方、働き方改革後に入社の、やはり若く
して税理士資格を完成した人。
彼が30になったときにそうなっているか。
たぶんなっていないでしょう。
実は本人とだけでなく、その指導担当の先
輩社員ともこの問題点は共有していて、一
緒に難しい案件に対処してもらったりして
はいるのですが、仕事が集中する20代を
過ごした人と同じレベルになるにはもっと
時間がかかるはずです。
個人間の能力の優劣以前に、働く時間が違
ってぶつかる案件の量が違いますし、複雑
になりそうな話は最初から先輩が対応して
しまう場合が多い。
私たちの事務所もメンバーが充実してきた
ので、若手に任せなくても大丈夫になって
いるという事情もあります。
これが20代の彼にとってはたして良い状
態なのか。
一般に新卒学生は残業時間の少ない会社を
喜びますし、就活サイトでもそのアピール
が求められます。
親御さんも子供に過労死されては困ります
からそれも十分に理解します。
事務所全体としても残業が少ないことを目
指してきたわけですし、今後もそのつもり
ですが、冒頭示した通り、ぼんやり感じて
いたものを課題として改めて考え、より明
確に対処していかないといけないのかもし
れません。
この特集では、
「働き方改革」の次は「働きがい改革」
とうまいことを言って終わりにしていまし
たが、これといった解決策を知ることはで
きませんでした。
同じ20代でも、「自分は早く帰れればそ
れで満足」という人もたくさんいるでしょ
うから、答えは一つではありません。
まずは、こうした問題が「ゆるブラック」
というキーワードとともに大きく注目され
てきた。
そう認識するところからのスタートになり
ます。
■まとめ
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残業を単に減らすだけだと、若手社員のや
る気を減らす「ゆるブラック企業」になり
かねない。
■編集後記
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長男が高校教師(下記「先輩」)、という
社長のお話を聞きました。
緊急事態宣言も明けたある日、教師仲間数
人で、あえて自分たちの学校から遠いお店
で何かの慰労会をした。
そこで、若い先生がトイレに立ったところ
で自校の生徒たちが飲み会をしているのを
目撃してしまった。
若い先生は先輩に相談。
先輩は、自分じゃ決められないと一緒にい
た主任に相談。
主任は、困って電話で校長に相談。
校長は、見過ごすわけにはいかないので警
察に連絡。
店に警察が来て、生徒たちは補導されるこ
とになりました。
先生達は、生徒を警察に突き出したかった
わけではない。
警察官だってこんなことで出動して高校生
をしょっぴきたくないでしょう。
ただ、それぞれに立場があって「聞いたら
見過ごすわけにはいかない」の連鎖からこ
うなってしまったようです。
登場人物の誰もが不幸に思えたお話でした。
不幸を避けるには、現場のかなり最初の段
階(=「見ていない」段階)で先生たちが
こっそり店を変えることだったのでしょう
か。