第51回 直感

  • レポート
  • 2009.09.28

数字はもちろん重要ですが、直感も馬鹿にできません。
直感により得られることは、数値で予測できる以上であることも少なくないからです。

これについて、将棋棋士の羽生善治名人は、直感は経験で磨かれると言っています。

棋士は、高速コンピュータのように何万手を計算するわけでなく、自分の頭の中からそれにも勝る見事な一手を打つわけですが、これを導く直感は経験が磨くというので す。

もちろん素地となる生まれつき持ったものやセンスがあるのだと思いますが、そこから出てくるように見える直感は、実は経験が磨くのです。

分かる気がします。

まずは古い話から。
私はかつて「3次は勘で受かった」と豪語していました。
私の頃はまだ公認会計士に実務経験を経た後に受ける第3次試験があり、その試験のことです。

受験が近づいたある日、何気なく会計情報誌の記事(企業会計審議会が出した新しい会計処理の取扱)を見ていて、自分が試験委員だったらこれは問題にしやすいな、と ふと思いました。

私はその頃から会計士受験生(2次試験)向けに講義をしたり問題を作っていたのですが、その経験からいくと、とても問題にしやすいテーマに見えたのです。

これは、必ず出るという確信に変わりました。

そして試験当日、それは確かに出ていました。
もともと出れば大きな割合を占めるテーマだったので、その科目は完璧でした。

確かに直感というか勘なのですが、これを導いたのはやはり経験だったのだと思います。

講義や問題作成の経験がなければ、出そうだ、とは思わなかっただろうし、新しい領域で少々難解なので、忙しい業務の傍らで勉強もしていなかっただろうからです。
たぶん、私以外の受験生も実務経験の傍らの勉強ですから、できた人は少なかったと思います。

そして現在。
決算書や会計データの問題点を、経験のない人よりも早く、より的確に発見できるということはもちろん
(全体をざっとみていて何か変だな、と思って見返すと、本当に違っていることが良くあります。)

多くの企業やビジネスを見せていただいてきたおかげで、会社の立ち上げ方法やビジネスアイデアを伺うと、数値を見るよりも前の段階で、「これは難しい」、ということがかなり高 い確率で判別できるようになってきました。
(残念ながら、これはいけそうだ、と思うものは外れることはあります。しかし、難しい、というものは高い確率で当たります。)

これをご覧の皆さんも、ご自身のビジネスの中で、経験の積み重ねは良い直感を生むことを意識して日々を送られると良いと思います。

経験のない新人の新鮮な思いつきはもちろん貴重ですが、経験の積み重ねから安定的に得られる深い直感はそれ以上にご自身と、属する組織を支えるはずです。

***************************近況から********************************
半藤一利著『昭和史1926-1945』を読みました。
以前、日本人の体質を知り、過去に学ぼうという話を書きましたが、まさにその観点で読むことができます。

この本にもある通り、多くの研究家によると、ダメな昭和日本(というかそこから現在につながる日本人)の体質は、ノモンハン事件に凝縮して見ることができるようで す。
(ちなみに、ノモンハン事件については著者自身から『ノモンハンの夏』という本が出ていて、その詳細がわかります。

また、これはあの村上春樹も非常に深く関心を持っているテーマで、その作品『ねじまき鳥クロニクル』の中にも重要な位置づけで登場します。)

なお、この本では、体力も材料も十分だった司馬遼太郎が、ノモンハン事件を書きたくても書けなかった理由も明らかにされていて、興味深く読みました。
(司馬遼太郎と親交のあった著者が語るエピソードで、正確に言うと、書くことができなくなったあるできごとが記されています。)